衛星インターネット元年 2021
2021年、今年は衛星インターネット元年となりそうです。
3-4年前にAI元年といって、長年研究レベルであったAIが実用化の段階にはいり、一般に認知されましたが、今回は衛星を使ったインターネットサービスがいきなり世の中で認知度を高めそうです。
さて、衛星インターネット(衛星通信)は、歴史がかなり長く全部説明していると長くなってしまうので割愛しますが、1960年代の初期の通信衛星以来、約50年以上の年月が経っております。
詳細の説明は、後にして、2021年現在の画期的衛星インターネットサービスの現状を映像などを混じえてこの報告でお伝えします。
STAR Link サービス開始(2021年)
まずは、驚きは、衛星インターネットサービスのお値段が$ 99/月。
ハードウェアなど一式がStarter Kit $ 499. (下の画像のボックスに入っている)
これは、ソフトバンクがエアルータなどの商品をネット販売するのと、ほぼ同じ感覚ですね。下記の動画は、一般のユーザーが購入して使用したことをYouTubeで報告したものです。過去の衛星通信システムと比べると大きなBreakthroughが起こっていることがわかります。
人工衛星は低軌道衛星で、現在稼働している数は1200機で、近い将来42000機に拡大される予定です。
衛星本体の構成は、本体が3×3×0.2 メートル に 7×3×0.05 メートルの太陽電池パドルがついています。(下の写真を御覧ください)
SpaceXは今年2021年3月14日までに21回の打ち上げを行なっており、すでに1,200機程度、計画全体の10分の1の人工衛星の打ち上げが既に完了して現在ベータ版としてサービスを開始しています。
今後、ロケットは10日に一回のペースで、打ち上げられ、ロケット一基に衛星を数十機搭載しているので、すごいスピードで通信衛星の数が増えていきます。
インターネットの目標速度は10 Gbps(条件の悪い場所の5Gより速い)
現在提供されているベータ版の通信速度は下りで70Mbpsから130Mbps程度とのこと。(実際はもっと出ているレポートもある)
昔の静止軌道衛星(高度36000km)サービスではでは、致命的な問題であったレイテンシーですが、このスターリンクでは、高度340kmから1,325kmの低軌道のため劇的に改善されて、地上のインターネットと同じレベルになっています。
イーロンマスク氏は自身のTwitterで、2021年以内に通信速度を300Mbpsに、通信遅延を20ミリ秒にすると宣言しています。普通の地上インターネットでは遅延は50msで充分なので、実用上全く問題ないレベルになる予定です。日本の中小企業では、社内有線LANで提供されているスピードでさえ30Mbpsに達していないところがけっこうあることを考えると、遥かにハイスペックなインターネット回線をいきなり衛星通信で達成しているということになります。世界ではまだまだインターネットと言っても数Mbpsでやっているところが非常に多いことを考えても画期的なことです。
現在のβ版の段階のユーザーがスピードの報告をしているので、時間がある方は、下記御覧ください。Pingで27msec, Speed 154Mbpsと報告しています.
(一般ユーザーがYouTubeに使用レポートをアップしているもの)
いくつかレポートを見ていると、高速を要求されるゲームでさえ、既に使える状況のようです。今後、衛星の数が急増すると、スピードも急激に上がると思われます。もちろんユーザーも急増するでしょうから、最終的にはユーザーの数とのトレードオフになることでしょう。いわゆるシステムの性能については、実用上の問題は既にないレベルに達しており、後は、キャパシティの追求、つまり一般の地上携帯システムが基地局数の競争になっていることと同じ状態ということになります。
総務省は今夏にも電波法を見直し、日本でも利用できるようにするとのこと
日々急増しているユーザーですが、6/30(水)時点の報道で、マスク氏は「最近、アクティブユーザーが戦略上重要な6万9420人を突破した」とのこと。ユーザー数は今後12カ月以内に数十万人、あるいは50万人を超える可能性もあると見られている。
何が変わるの?ところで
読者の皆様には、So What ? それで、なにがそれで変わったり役にたつの?ってピンとこないこともあるので、いくつかすぐにわかることをご説明します。
地球上のインターネットサービスがないエリアは非常に多い
携帯電話や高速インターネットのサービスを受けられるには、光ファイバーが敷設されているか、携帯基地局の電波が届くエリアとなります。つまりだれもが経験しているように、山岳地帯、海上沖合に出た場合などでは、携帯電話だけでなくインターネットサービスが途切れてしまいます。
過去20年の間、通信事業者は巨大な資本を投下して基地局を建設し、エリア拡大を続けてきましたが、さすがにアルプス山脈など道路もない僻地では、採算性の観点から考えると、未来永劫、基地局建設をすることはないでしょう。しかしながら、衛星通信であればこれらの不感地帯を一気にカバーすることができるわけです。
これまでも、高額で静止衛星(高軌道)を使った通信手段はありましたが、Starlinkのような$99といった金額ではあり得なかったし、通信速度も極めて低いものでした。今年始まったStar linkサービスは、価格の面、性能の面でも、インターネットサービスの未開拓の地域への根本的なソリューションとなるわけです。未開拓地域での需要は海外、地球全体でみると膨大な市場となるわけです。
ユビキタス、地球上の「いつでもどこでも誰とでも」の理想に大きなブレークスルーとなるわけです。
災害時の通信に利用
いうまでもなく災害時には広域で通信手段が破壊されたり分断されて、捜索活動、救助作業などに甚大なる問題を引き起こします。そのための対策案は、政府レベルから民間企業、特に通信事業者で莫大な費用と時間をかけて行われているわけですが、衛星インターネットはこれらの問題に非常に多くのソリューションを提供できることになります。たとえば、下記のような多くの対策案が検討されております。(サンプルとして最初のページのコピーのみ掲示)
これらの対策は、地上からのシステムでは物理的に様々な限界があります。そしてなんとか工夫した解決策も効果が限定的であるばかりか、非常に高額の費用がかかっています。
衛星インターネット(Satellite constellation)や 後述するHAPSなどは、上空から一気に通信網を地上に構築できるので、今までどうしても不可能と思われたことが可能となるわけです。
Disruptor としての意味
マスクが華々しくぶち上げたディスラプションは、計画通りに現実のものになりつつある。2021年は、大幅にお得な通信サービスが誕生する年となるのだろうか?
様々な応用がDisruptionを引き起こす可能性
通信サービスにおける最大の課題のひとつは、人口密度が低く、通信インフラの構築が経済的に難しい地方部に、どのようにしてインターネット接続サービスを提供するかという問題です。こうしたエリアの多くに加えて、自然災害の被害に遭った人たちなどが、他社に引けを取らない帯域幅とレイテンシを手頃な価格で提供する、スターリンクのような衛星インターネット接続サービスを利用できるようになったら、果たして何が起きるでしょうか?
さらに、こうしたサービスが、当初のターゲットである地方部だけでなく、既存の通信会社からあまり十分なサービスを受けられていない人たちからも、選択肢として検討されるようになったらどうでしょう?
またペイロード(ロケットへの搭載する衛星機器)を変えることによって、ハリケーンや台風の観測・気象予測や違法漁業の摘発、山火事や火山噴火の早期発見、野生動物の観察などに活用する用途も可能となる。
これまで厳しい規制に縛られがちだった業界に、スターリンクが突き付けるテーマは他にも数多くある。ある市場に人工衛星技術を用いる企業が現れて、競争力のあるサービスを提供した場合、他社に再販されることが多いですが、こういった場合に問題となる事業者向けの周波数免許やインフラの減価償却にはどのような影響があるか?
また、通信事業者のサービス内容について政府が監督権を維持し、これを利用して何らかの形の検閲を実行している国では、何が起きるだろうか? ロシア、中国をはじめとする政府は、こうした衛星通信サービスを用いてインターネットに接続しようとする国民に対して、妨害措置を実施するだろうか?
Twitterが世界の人々の行動文化を大きく変えたように、「社会主義国」など通信を民間から隔離しようとしていることも、今度は宇宙からブレークの波がやってきたらどのようにこれを防御するのであろうか。地上系のインターネットが世界をボーダーレスにしてきたけれど、このボーダーレス化を一層拡大する起爆剤になることでしょう。
米国以外の国でも、地方部をターゲットにしたスターリンクのお得な料金プランを目にするようになるのだろうか? つい最近まで、これはSFのように現実離れしたシナリオでしかなかった。イーロン・マスクが発表した衛星インターネットのサービスは、SFではなく現実に実現される情勢になっている。
IOTにさらなるBreakthough
昨今IOTは、業界で一般化され急拡大しつつある。IOTでは、端末のデバイスと中央のソフトウェア(クラウド)を結ぶ通信リンクが、地上系の通信ネットワークを使用する限り、かなりの制約条件になっている。特に農業、漁業などのように僻地でデバイス密度が低いところがコスト的に問題である。しかし、衛星インターネットはこれらの問題を一気に解決してくれるかもしれない。IOTも近年の技術確信であるけれど、この基礎になっている地上系ネットワークに衛星インターネットが加わると大きなブレイクスルーとなることは間違いないでしょう。
IOTも宇宙インフラへ
衛星通信は、地上系インフラ業者が今までは見向きもしなかったニッチな事業エリアであった。 地上系インフラ業者にとっては、万が一の時のバックアップ回線という位置づけであった。
そんな衛星通信のイメージは、これから10年も経てばひっくり返る。
「衛星通信にあらゆるものの通信を収容していく」インフラの重要なコンポーネントになると、2017年に総務省は「宇宙×ICTに関する懇談会 報告書」を発表している。報告書には、2030年には衛星ブロードバンドサービスが完成し、自然環境や各種インフラを監視するセンサー端末から、農機・重機・航空機・海洋資源探査船、5Gのバックホールなど、すべてのコネクティビティを衛星通信が提供する未来像が描かれている(下図参照)予測されていたことではあるが、これが大幅に早期実現されそうな自体になってきた。
巨額投資が今後も必要となる
6月29日ニュース(スターリンク急成長)
イーロン・マスクは「衛星インターネットサービス事業「スターリンク」が急速に成長しつつあり、顧客数が今後1年で50万人に達するとの見通しを示すと同時に、最終的に200億─300億ドルの投資が必要になるとの見方を示した。」
「現在の顧客数は6万9000人。マスク氏によると、これまでにスターリンク向けに1500超の人工衛星が打ち上げられ、約12カ国で運営されているという」
これらの記事をみても、破産するか、成功するか、世界が注目している驚愕的なプロジェクトとなります。
衛星で世界のネット空白埋める30億人の市場開拓へ
アマゾンのKuiper計画は、スターリンクを追って昨年度発表された。
アマゾンのインターネット衛星群「Kuiper」が米国連邦通信委員会の承認を獲得、1兆円超の投資を発表
OneWeb LLC
Space Xと対抗しようとているのがOneWebで、同じく低軌道衛星コンステレーションの衛星通信事業を目指している。ソフトバンクが5割の19億ドルを出資していたが2019年破産申請をした。その後、イギリス政府とインドのコンソーシアムに買収されて再建途上である。
計画では通信速度下り200Mbps、上り50Mbps、レイテンシー20-30ms程度の衛星通信サービスの提供を目指していた。
2021年5月13日のソフトバンクのプレスリリース
「ソフトバンク株式会社(本社:東京都港区、代表取締役 社長執行役員 兼 CEO:宮川 潤一、以下「ソフトバンク」)と、OneWeb Ltd.(ワンウェブ、本社:英国ロンドン、CEO:Neil Masterson、以下「OneWeb」)は、日本およびグローバルでの衛星通信サービスの展開に向けた協業に合意しました。ソフトバンクの先進的な通信サービスやDX(デジタルトランスフォーメーション)ソリューションなどとOneWebの低軌道衛星通信サービスを連携させることで、衛星通信サービスなどの展開を推進していきます。」
中国も参戦「星網」計画
宇宙での陣取り合戦がいままさに繰り広げられている。スペースXはすさまじいペースで低軌道周波数帯域や軌道リソースを占拠しており、これが中国の衛星インターネット計画に火を付けた重要な要因であるとも考えられている。
4月、国家発展改革委員会は記者会見で「新基建〔新型インフラ建設〕」の範疇を詳細に公表し、衛星インターネットと5Gはいずれも通信ネットワークインフラ〔通信ネットワーク、情報インフラ、融合インフラが「新基建」の三大範疇〕の代表格とされた。これ以降、上海、福州、北京などで発表された「新基建」アクションプランにも衛星インターネットが組み込まれ、例えば上海の2020~2022年アクションプランには「衛星インターネット情報サービス能力をおおむね形成する」とまで掲げられている。また、複数の情報筋によると、現在設立中の衛星インターネット運営事業者の総本部は上海になるということだ。
「設立後は副部級中央企業〔国務院国有資産監督管理委員会の管理を受ける中央企業。共産党中央委員会組織部が主要幹部を任命する〕になるだろう」。ある関係者によれば、同中央企業は業界内で「星網集団」、またこれに伴う中国衛星インターネット計画は「星網」と呼ばれている。
Synspective(Venture)
通信用ではないが、地表のデータを雨や雲の影響を受けないで測定するSAR技術を活用する衛星の打ち上げとソリューションを開発中の日本のベンチャー。
日本時間12月15日 19時09分に、ニュージーランドの マヒア半島にある発射場からRocket Lab社のElectronロケットにより、当社の小型SAR衛星「StriX-α」が打ち上げられ、予定通りの軌道(太陽同期軌道、高度500km)への投入に成功しました。
雲を透過し昼夜を問わず地球観測が可能なSAR衛星は、発災直後に被災エリアを広域に把握する手段として活用されてきました。これまで、SAR衛星は多くの電力を使うこと等から小型化が難しいとされていましたが、近年、技術課題であった小型化に成功した次世代型SAR衛星が出現し、衛星コンステレーション*1を構築することで、災害対応において新たな活用の進展が期待されています。
合成開口レーダー(SAR:Synthetic Aperture Radar)
日本政府の決定 2021/6/29
市場規模
いろいろ調べてみても、まだあくまで推測の域に過ぎないとも思われるが、総務省などの検討資料を一部掲載しておく
Morgan Stanley
The revenue generated by the global space industry may increase to more than $1 trillion by 2040.
Space Xのロケットの圧倒的な実力
打ち上げ実績
まず、主力ロケットのFalcon9, Falcon Heavyの打ち上げ実績をみてみると。
2010年~2013年 : 7回(Booster landing 失敗3回)
2014年 : 6回(1回失敗)
2015年 : 7回(booster landing2回失敗、他1回)
2016年 : 8回(booster landing3回失敗)
2017年 : 28回(失敗0) Booster Landing すべて成功
2018年 : 20回(booster landing2回失敗)
2019年 :11回(ドローン船1回失敗) Starlink 60機/Falcon 初回
2020年 :26回(Drone ship2回失敗)
2021年 6月まで:20回(drone ship失敗)
合計で123回の打ち上げを行っている
最近では、1-2週間に1回の頻度で打ち上げられている。このペースを今後増やしていくようなので、毎週打ち上げするほどの頻度になってくる。
再利用できるBooster LandingがBreakthrough
Space Xの画期的なことは、ロケットを再利用できるようにしたことだ。着陸の様子は下記YouTubeを御覧ください。
SpaceX Nails Landing of Reusable Rocket on Land
HAPS Mobile :成層圏携帯電話システム
さて、これは衛星ではないけれど、Star linkと同様に空から地上に携帯通信網を構築するシステムがHAPSと呼ばれるプロジェクトでソフトバンクが主体で取り進められている。これも昨年度2020年10月に成層圏からの通信実験に成功している。
HAPSが衛星インターネットと大きく異なるのは、高度が20kmと衛星LEOに比較し低いことだ。
HAPSの説明は下記を御覧ください。
ソフトバンクのNTNソリューション(衛星ニュースに記事があります)
ソフトバンクは、本年6月9日、米Skylo Technologies(Skylo)と、衛星通信サービスの日本での展開に向け協業を開始したと発表した。
非地上系ネットワークというのは、大きく地上の携帯電話ネットワークに対して、HAPSのような成層圏より高い飛行体や衛星を使用して通信のネットワークを構築すること。つまり、HAPSだけとか衛星コンステレーションだけというシステムではなく、宇宙系すべての通信システムコンポーネントを連携して、様々な通信需要にソリューションを提供することだ。この考え方からすると、遠い将来は現在地上系でMVNOのような競合他社のネットワークもレンタルで統合してサービスを提供することが宇宙系のシステムでも可能となるかもしれない。
この他にも、多くの通信事業者が衛星・宇宙系通信へ大きく資本投下を始めている。そういった意味で2021年は衛星通信元年といってもいいのではないだろうか。
宇宙ロボット
本年2月号にて、Roboticsの特集を行いましたが、Roboticsは宇宙空間でも今後いろいろな分野で活躍することは間違いありません。つまり、多くの急成長したテクノロジー分野が、今後は宇宙を舞台にして統合化されソリューションを提供していく時代になってきているわけです。
実証実験では、ISS(国際宇宙ステーション)での船内作業と宇宙組⽴作業の2種類を想定しています。船内作業とは、スイッチを押したりケーブルを抜き差ししたりといった、これまで宇宙飛行士がこなしてきた作業です。これに対して宇宙組⽴作業では、ソーラーパネルや通信アンテナといった設備の部品を宇宙空間で組み立てることになります。今回はパネルに見立てたものを組み立て、展開する実験をします。宇宙組⽴作業は、特に米航空宇宙局(NASA)やロシアが長く夢見てきたコンセプト。
引き続き、衛星・宇宙系通信のレポートを継続的に報告してまいります。