DX全体の構図の中の、人材開発についてまとめます。
はじめに
コロナ禍の対策のメインとなるワクチンについては、日本政府の対応の遅さの原因について考えてみましょう。上図、には一番下に風土文化という項目があります。これについては、事業家の皆さんにとってちょっとわかりにくいかとは思います。つい最近のニュースで、日本はワクチンの接種率が世界で110位との報道を見て、日本のGDPなど経済的な世界的ポジションから見て、あまりにも理解できにくい事実なので、コメントしておきたいと思います。
逆転の発想
昨年度、コロナで10万円の給付金でも同様でしたが、コロナの緊急事態が1年も続いているのですが、基本的に改善はあまりないようです。世界110位ということは、先進国の日本にとって理解し難いことです。私は、国民の風土や文化の専門家ではありませんので、明確な説明はできないのですが、何か非常に特殊なものが日本にはあると感じます。DXデジタル化の進捗も日本は他国から著しく遅れていると報告されて久しいのですが、今年はデジタル庁が発足し、今後大きく変わるのかどうか、期待されるところです。私は、コロナのような「国家の緊急事態でも変わらない」という現実からの推測ですが、デジタル化の普及にはもう少し時間がかかるのではないかと思います。
ビジネスチャンス!
ここで、何故、「日本国家のことなど」、政治家でもないのに持ち出しているのかと申しますと、こういった社会(ビジネス市場)では、ある意味、他社を出し抜くことができるチャンスが大きいのではないでしょうか? 例えば、現在、米国市場に行って、いまさらDXで勝負!なんていっても、既に大きく出遅れているのでいくら頑張っても厳しいでしょうが、日本市場を狙うなら、ある意味すごくいいチャンスがここにあると見れるでしょう。特に、地方自治体のようなデジタル化が著しく遅れたところは、(ビジネスを作るのは手間がかかり難しいことではありますが)、創意工夫をすれば、大きなチャンスがあるのかもしれません。キーポイントは、風土や文化風習に根付いたものは、簡単には変わらないということですね。それをうまく利用してビジネスに結びつけるということも、考察に値すると思います。
DX人材開発の重要性
それでは、本題の人材位開発について、説明していきます。
DXの本質が、単なるデジタル化や効率化ではないことを説明してきましたが、もしそうだとすると、会社の経営者や事業家としての考察が必要となってきます。昔から、事業にはヒト・モノ・カネといわれてきましたが、現代では、それにデータ・時間・UX…などといった重要な項目が追加されます。
遠い将来は、AIが人に取って代わる時代が来ることも考えられますが、まだ、10年-20年の間はヒトが重要な要素であることは間違いがないでしょう。特に、DXにおいては、後述しますが、ヒトの役割が非常に大きいことになります。
前に、説明した画像ですが、DXというのは革新的要素が中心となっています。つまり、過去の繰り返しのような機械的なところではなく、過去になかった新しいものを創造することです。従って、これを実行する「ヒト」のコンペテンスが重要になってきます。これは、人材の開発が非常に重要ということです。人材開発というのは、一般に想定されている、「適当な研修コースを受けさせる」だけで、DXの人材が育成されるということは、まずないでしょう。この為には、おそらく会社ごとに非常にカスタマイズされた人材育成のプログラムが必要となってきます。これが、わざわざDXに人材開発という大項目が設定されている理由です。
DX人材とは
DXとは単に「情報技術(IT)導入」や「デジタル化」を指すものではありません。デジタル技術を活用してビジネスモデルの変革や経営改革を実現することこそが、DXの本来の目的です。そのため、特定の部署や担当者だけが取り組んで実現できるものではなく、経営層も含めて全ての従業員が横断的に取り組む必要があるといえるでしょう。
そして「DX人材」とは、DXの実現に向けて、明確なビジョンを描き、その実現に向けて具体的な取り組みを実行できる人材のことを指します。
DX人材の素質
DX人材: リーダーとしての自覚
DXは、変革を実行することなので、既存の業務プロセスの変えなければいけない。当然、前回の組織論で述べたように、抵抗勢力との戦いが発生します。そういった抵抗に屈せず目的を達成する精神力や、コミットメントが必要であるので、ただ、IT技術に詳しいと言うだけでは不可能で、組織のリーダーという自覚が必要となります。
常に学習:新知識を吸収し続ける
DX材には広いIT技術分野のリテラシーが求められます。デジタル領域は変化が激しく、常に最新の技術やトレンドに追いつく必要があるので、新しい知識やスキルを自ら積極的に学び、適応していく姿勢が重要となります。
変革者としての マインドセット
DXは現在は存在しない「価値」を創造する全社ベースの取り組みなので、一般にいわれるプロジェクトマネージャーの資質が最低限必要であるが、それに加えて、経営幹部との交渉やユーザーからのフィードバック、経営環境の変化などにも、臨機応変に対処しなければならない。その際に重要なことは、発想の転換、多角的視野での判断、時間軸(中長期)で物事を見る洞察力、これらのマインドセットが必要となるでしょう。
DX人材現状認識
いくつかの調査レポートから現状は一般にはどのようになっているかピックアップしてみました。おそらく自社もほぼ同様と考えてもさしつかえないと思います。
危機感
まず、危機感の分野については、下記のとうりですが、自社の場合は5年くらいは5Gで大丈夫との認識で一致しているので、約50%のなかに入っているということでしょう。
将来の危機に対しての認識では、63%が新ビジネスの創出の必要性を感じているようです。ただ、この危機感が一般的には、漠然とした危機感が大勢を占めており、現実を精査した上での危機感ではないことを理解する必要があります。
DX人材不足感
DX人材不足の調査では、約半数が不足感をもっているとの結果です。人材不足についていえば、(DXではなく)、一般的な人材不足については、20年前からメディアで当然のごとく報道され続けていますが、現実には、(コロナは除いて)大規模倒産が起こっているわけでもなく、経済は長期的発展を続けて行っているようです。自動化はいろいろな形で進んでおり、遅いかもしれませんが、効率化も着実に進みなんとかなっているというのが現状ではないでしょうか。(ニュースでは、コロナ前にも、飲食店で店員が集まらず閉店しているという報道もあるので、すべてと言うわけではありません。)
ここでは、一般の人材ではなくDXの人材ということでの調査です。このDX人材というのは、まだ、それがどんな人材なのかわからない状態での調査ですので、下記のレポートはそのレベルの精度だと思って見ていただくといいと思います。
DX人材がどんなものなのかは、後述いたします。
人材については、いろいろな角度から見る必要もあります。
人材不足の影響の認識
これはDXも含むデジタル技術という大雑把なくくりでのレポートです。
官公庁でDX人材の公募がスタート
デジタル庁の発足にあたり、政府もデジタル人材を本格的に調達し始めました。いいことだと思いますが、後述するようにデジタル人材を政府の組織が活用できるかどうか、相当高い障壁があるのではないかと推察いたします。
「政府はデジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進するために、2021年9月に「デジタル庁」を新設する予定。具体的にはマイナンバーの利用促進に向けたネットワークシステムの設置や、国による情報システムの整備・管理、データの標準化、外部連携機能に関する政策の企画立案などを担います。」
DX人材に求められる能力
それでは、DX人材に必要なスキルについてまとめていきます。DXというのは非常に広い分野にまたがり、かつ、それぞれに異なったスキルが要求されます。従って、スキルセットをまとめるやり方も、各社各様ですので、下記のものがすべてと言うわけではありません。
いろいろ調べておりましたら、三菱総研の記事が一番良くまとまってるようでしたので、(あまり複雑ではなくわかりやすい)主にそちらの要約と他の記事の補完で以下の説明をいたします。(だいぶカスタマイズしています)
「デジタル技術の活用の知見を有する人材だけを集めても、DXは進展しない」
DXに求められるスキルを大別すると、技術系の「データサイエンス・エンジニアリング」スキルと、ビジネス系の「ビジネス・サービス設計」スキル、そしてマネジメントとしての「組織・プロジェクト管理」エリアがあります。(以下定義はそのまま)
- 「データサイエンス・エンジニアリング」は、文字通りデータサイエンスやITを駆使してモデルの開発やアプリケーションの実装を行うスキルである。AI/機械学習などのデータサイエンス系のスキルと、フロントエンド、バックエンドの実装やクラウド活用に関する知見などのITエンジニア系のスキルがある。
- 「ビジネス・サービス設計」としては、ビジネスモデルや業務を設計するビジネス面のスキル、ユーザーに対する理解や洞察に基づきUI※1やUX/CX※2、グラフィックを設計するデザイン面のスキル、またデザインシンキングなどのサービス開発手法の知見などが挙げられる。
- 「組織・プロジェクト管理」には、組織マネジメントやリーダーシップなど、組織を形成・運営していくためのスキルと、スクラムなどのアジャイル開発の方法論、プロジェクトマネジメントに関するスキルがある。
人によって、名前の付け方は異なっているが、DXを推進する上で大きく分類して上図のような、3つの分野が必要となる。よくよく考えてみると、上記の3つの分野のコンペテンスを全部兼ね備えるというのは、会社運営そのものになってきますね。では、いったい何がDX推進と普通の会社運営と異なるのでしょうか?
三菱総研だけではなく、多くの研究所などがDXの調査検討を行い、報告文書を出版している。それら殆どが、ほぼ同じ内容の報告になっています。(もちろん細部では異なるところはありますが)
多くの企業がDXという風潮に乗って、大規模な研究投資を行っているけれど、最終結論はほぼ同じに見えます。この点で、私なりの見解をもう少しわかりやすくまとめたいと考えておりますが、これは、DX最終号(6月)でお伝えしたいと思います。
DX人材のマインドセット
冒頭でも述べたことですが、マインドセットについて、もう一度詳しく見てみましょう。
ここまでデジタル人材に求められるスキルに関して述べたが、デジタル人材にはハードスキルだけでなく、むしろマインドセットがより求められることを述べたい。
積極的にDXを推進している複数の企業に対して当社が実施したインタビューでは、「スキルも重要だが素養としてのマインドセットや行動特性を重視している」——という話が寄せられた。具体的なデジタル人材に求められるマインドセットとして、「現状を変えたい、現状踏襲をよしとしない」ことや「自ら新しいものを生み出す」といった貪欲な姿勢、「発想を転換できる」「単一施策や短期的な結果で評価・判断しない」という柔軟性が重要であるとの意見があった
(NRI引用)
これは、日本の社会では、一番うとんじられる存在ということですね。
UI・UX志向(以前のCS進化形)
DXは「顧客中心」が大前提となっています。DXを推進する上で、最も重要なのはユーザに提供する価値を軸にデジタル技術で事業を変革していくこと。
UXは「ユーザーが、ひとつのモノ・サービスを通じて得られる体験」を意味しています。このユーザーの体験を改善することで、利用者にとって製品・サービスの価値を向上させることを目的としています。UIは「一般的にユーザーと製品やサービスとのインターフェース(接点)すべてのこと」を意味します。WebサイトでいうところのUIは、サイトの見た目や、使いやすさのことを指します。
UI・UXを向上させることで、ユーザは長い期間、サービスを利用してくれ、大きな収益基盤になります。また、ユーザへの提供価値を主体的に考えてUI・UXを設計することで、効率的にデータを取得できるようになり、そのデータを活用したサービスの改善などが可能となります。
ユーザーを包含するプロジェクトマネジメント
DXを推進する上で、組織や事業の課題に着目し、仮説を立てた上で、プロジェクトをマネジメントしていくスキルが求められます。プロジェクトマネジメントは、PMBOKやアジャイル開発などすでに確立された手法があります。特に、DXプロジェクトで異なるところは「ユーザーと一緒に要求や要件を決めていく」ことです。ユーザーを含めたPMというのが既存のPMとの違いとなります。
チャレンジ精神と新しい発想力
DXを推進する上で最も重要なマインドは挑戦でしょう。DX人材には「現状を変えたい欲求」を持つ人材が求められます。 現状に満足することなく、疑問を抱き、挑戦し続けなければDXは実現できません。ディスラプティブな発想・思考をいつも持ち、新しいことへのチャレンジが出来る挑戦力がとても大切です。
課題発見
DX推進するには、まず解決すべき課題を洗い出し、仮説を立て、それをデジタル技術で解決していくことが重要です。「顧客中心」の考え方を身に着け、ユーザーの課題に着目し、それを解決していくことで、新しいビジネスモデルの構築も可能かもしれません。これから起こる行動変化に目を向け、変化を先読みし、他社より先にいく課題発見力が重要です。
Human Skill(人間力)
DX人材は、相手の意見を聞き、周囲を巻き込むことが大切です。個人の意見・考えをもつことも重要ですが、他人の意見を聞き、周りを巻き込んでいかなければ、DXを推進することはできません。これは高い人間力が必要で、成功したリーダーは、必ずこの資質を持っています。
他領域とのコラボレーションを実施することで、DXの価値はさらに高まるため、お互いに尊重し合い、調整する能力が必要です。また、特に新規事業を作るためには、新たに人材を集める必要もあり、周囲の人々を巻き込んでいく求心力が必要となります。
DX推進を担う6つの役割(職種)
DX 役割の分類
ここでは、DXの役割について解説となります。役割の分類の仕方は、いろいろな会社がそれぞれ独自のものを作っております。結局のところ現実では、人材がこれらの役割分担チャートどうりに集められることはありません。つまり、理想の形を頭に描いて、現実では、それらの役割分担は各個人の能力によってカバレッジが変わってくるようになることでしょう。(何百人も人材がいる場合は別ですが)
繰り返しますが、DXの書籍などの情報を見ると、現実は無視して、理想的なDXの役割分担表などが出てきます。それを見て「なるほど」と思われるかもしれませんが、実際に経営経験のない学者や研究職の人々の作られたものは注意が必要です。「かっこいい」ですが、実際には、英語で言えば Bullshit! ですね。現実の会社の経営はそんな形では進められません。ただ、この理論的な役割分担は、DX推進するリーダーは明確に理解しておく必要があると思います。
わかりやすい役割分担は前章でのべたように下記のような分類となります。
もう少し技術部門を詳細に分類した例は下記のようになり、具体的な案件で役に立つと思いますので、掲載いたします。上記との差は、システム・技術の部分がより詳細に分類されていることです。また、プロデューサーはプロジェクトマネジャーも兼務となります。
プロデューサー
プロデューサーはDX推進を統括するリーダー格の人材です。プロジェクトマネジメントやリソースマネジメント、リーダーシップといった幅広い能力に加えて、企業が抱える課題を改善し、最後までプロジェクトを完遂するマインドも必要となります。
ビジネスデザイナー
ビジネスデザイナーとはDXの実現に向けた具体的な企画の立案を行う人材のことを指します。新しいビジネスアイデアや企画力があることはもちろんですが、社内外のさまざまな人間を巻き込んでプロジェクトを形にしていく「巻き込み力」や「調整力」も求められます。
また、新規事業には失敗がつきもので、綿密な計画を立てたうえでプロジェクトに取り組んだとしても、必ずしも成功するとは限りません。失敗を恐れずにチャレンジする姿勢や、失敗を糧にしていく姿勢もビジネスデザイナーにとって重要な要素といえるでしょう。
アーキテクト
アーキテクトとはDXに求められるシステムの設計を行う人材です。ビジネスデザイナーが企画を立案し、アーキテクトはそれを実現するために要件定義や中核部分の仕様策定などを担います。通常のシステム開発におけるシステムエンジニアも要件定義や仕様策定を担いますが、アーキテクトの場合はそれらに加えてビジネス面での課題に対する解決策の提案も行います。アーキテクトはプロジェクトを成功させるための重要なポジションです。
データサイエンティスト/AIエンジニア
DXと関連性の深い分野として、人工知能(AI)やIoTといった技術が挙げられます。これらを活用したシステム開発におけるデータ解析を担う人材が、データサイエンティストです。
特にAIにはビッグデータの活用が不可欠ですが、解析するデータによってもAIの分析結果は変わってきます。膨大なビッグデータからビジネスに活用できる知見を引き出すためには、データサイエンティストが不可欠です。
3-5. UXデザイナー
UXデザイナーとは、システムにおけるユーザーインターフェースの設計やデザインを担う人材です。
DXを全社に浸透させるためには、あらゆるユーザーにとって使いやすいシステムを導入することが不可欠といえます。システムは完成したものの、ユーザーにとって使いづらい仕様やユーザーインターフェースでは積極的な活用が進まず、DXが実現できません。UXデザイナーはユーザー目線で使いやすいシステムを構築し、実用性を高めDXを推進するうえで不可欠な人材といえます。
エンジニア/プログラマー
エンジニアおよびプログラマーは、主にシステムの実装やコーディングを担当する人材です。アーキテクトが設計した仕様に基づいてプログラムし、システムが意図した通りに動くようにコーディング、テスト、修正を実施します。また、エンジニアやプログラマーは、システムやソフトウエア開発以外にも社内インフラの構築を担うこともあります。
DX人材の育成
DX人材育成が必要で、これが実行できると、会社にはさまざまなメリットが生まれます。
自社の事業に最も適切なシステムが判断できる
企業がDXに注目している理由は、自社の既存業務の改善や、新事業の開発といった経営戦略で重要になるからです。そのため、新システムにおける効果を最大限にするには、「その問題点を把握する自社の人材」が実際に既存システムを使い、企画立案から開発に携わることが、DX推進の上で重要です。そして、既存システムにはなかった機能や付加価値がDX人材によって生み出されることで、現場の運用に合ったシステムができ上がりやすくなるはずです。既存システムを効率よく動かしてその特長を効果的に引き出すためには、自社の中でDX人材の育成を進めていくのが理想となるでしょう。
企業のシステムの一貫性が保たれる環境を整える
開発業務をベンダー企業に一任した場合、エンジニアの技術力やコストといった事情で、システムの一貫性が損なわれる可能性も出てきます。これに対して、新システムの企画から開発、テストまで幅広い作業に携わることができる自社のDX人材は、社内システムの一貫性を保つ上でも非常に役立ちます。
自社の中で社内システム開発が担える人材を育成しておくと、技術力やコストの問題が出てきても、その内容をユーザーとなる現場担当者と早期に調整することができ、システムの一貫性が保たれやすくなります。一貫性の欠如や共有のしづらさによって現場の不満が生じるリスクを考えると、やはり社内で育成したDX人材に企画からテストまでを任せるのが理想となるでしょう。
DX人材育成方法
DXリーダーの人材
DXに関する新規事業をおこなう際には、取り組みの推進役となるデジタルリーダーと呼ばれる人材が必要です。デジタルリーダーには、先進テクノロジーに広く深い知見を持っていて、自社にどのような技術が活かせるかを検討できる資質が求められます。また、前章で述べたDXのマインドセットを持ち、他のメンバーからビジネスアイデアを引き出す能力も必要です。
DX人材の育成方針:ビジネス系スキル人材は社内育成で
DXを推進するためには、DX人材の役割ごとにスキルセットとマインドセットを持った人材をバランスよくそろえ、チームとして機能させる必要があります。これらの人材をそろえるためには、「社内育成」「中途採用」「外部企業とパートナーを組む」などいくつかの方法があります。
DXを推進するための人材を外部から調達することは一般的に非常に困難になっています。一方で、社内に目を向けると、日本では終身雇用を前提としている企業が多く、自社のビジネスや組織の動かし方を知る人材を豊富に抱えている場合が多いので、これらの人材を育成することで、技術だけでなく、ビジネスにも精通している優秀なデジタル人材を外部調達しなくても確保できる可能性があります。
しかしながら、社内の人材育成もDX人材育成となると簡単ではありません。まず、一体誰が人材育成できるのでしょうか? 世間一般に普及している人材育成プログラムとはかなり異なっている世界で、なおかつ、新しい分野の技術知識もなくてはなりません。大きな壁があることは間違いがないでしょう。
DX人材の育成方法:座学と実践の両輪による育成
デジタル人材を育成するためには、
- 「座学によるスキルセット・マインドセットの習得」
- 「OJTによる実践力強化」
- 「(社内外との)ネットワーク構築」
の三つの方法があります。デジタル人材になるためには、座学によって、DXに必要なスキルセットやマインドセットを習得し、OJTによって、スキルセットなどを実践するための力を身に付ける必要がある。
研修・座学について
OJTの機会を増やす
必要に応じてすぐに良案を出せるDX人材を育てるには、書籍やオンライン学習などで知識を与えるだけでなく、現場で実践的な経験を積んでもらうことも大切です。例えば、DX推進をする部署に新人を配属すれば、OJTを通して学んだ知識の復習ができる場合もあるでしょう。実践の中で自分の意見が採用されて自信がつくと、さらに多くのイノベーションを生み出そうというやる気も生まれやすくなるはずです。
これも、理論的には理解できますが、実践するとなると簡単ではありません。時間がかかることを承知の上で、辛抱強くやり続ける意思が必要でしょう。
(社内外との)ネットワーク構築
さらに、特にDX領域では日々さまざまな場所で新しい技術やサービスが登場しており、必要な情報を全て個人でキャッチアップするのは難しく、効率的に情報を得るために社内外にネットワークを構築することがポイントになります。社内外とのネットワークを構築し、多種多様な人材とつながることが、新しい発想の原点になり、Disruptiveなビジネスモデルを創造し、社内外の新技術とスキルセットなどを活用し、実際にDXを推進していくことになります。SNSで各分野の第一人者をフォローしたり、またリアルの世界では、最新の技術・サービスの紹介や各社の取り組み事例などの情報交換が行われるコミュニティーに参加したりすることによって、他社の取り組み事例を知ることで、自分たちでは気づかない技術やサービスの活用方法や課題の解決方法を知ることができるわけです。
DX人材育成の環境整備
DX人材が育つ環境を整える
DX人材の育成に向けて企業がDX推進事業をスタートするにあたっては、失敗するリスクを恐れるあまり、せっかく生まれたアイデアを実行に移せないことがあります。しかし、DX推進そのものが革新的な取り組みであるため、失敗を許容できるような体制(予算と時間の余裕)を整えた上で、DX人材が新しいことにチャレンジできる環境を用意することが必要でしょう。
全社員のデジタルリテラシーを底上げする
DX推進をおこなう企業では、一部のDX人材だけの教育に力を入れるのではなく、全社員のIoTやデジタル分野に関する知識を深めるための取り組みも必要です。具体的には、IoTやAIの研究会や社内セミナーを開くなどの取り組みをおこなうことで、普段は最新技術に触れる機会の少ない従業員でも、徐々に自身の知識を深められます。社内システムの開発などに取り組む際、全社員のデジタルリテラシーが高く保たれていれば、DX人材を中心に進めるヒアリングや運用テストなどが実施しやすくなります。
DX人材になるための学習支援をする
前章の人材育成でも触れましたが、意欲のある若手には、資格取得や学習のための金銭的な援助も必要でしょう。社外のDXに関するセミナーなどに参加させるなどの支援策を年間の予算計画の中に組み込む必要があります。
OJTなど実践できる機会を設ける
必要に応じてすぐに良案を出せるDX人材を育てるには、書籍やオンライン学習などで知識を与えるだけでなく、現場で実践的な経験を積ませることも大切です。
例えば、DX推進をする部署に新人を配属すれば、OJTを通して学んだ知識の復習ができる場合もあるでしょう。実践の中で自分の意見が採用されて自信がつくと、さらに多くのイノベーションを生み出そうというやる気も生まれやすくなるはずです。
DXリーダーという人材を確保する
冒頭で述べましたが、特に重要と思われることですが、DXに関する新事業をおこなう際には、取り組みの推進役となるDXリーダーと呼ばれる人材も必要です。DXリーダーには、先進テクノロジーに広く深い知見を持っていて、自社にどのような技術が活かせるかを検討できる資質が求められます。また、他のメンバーからビジネスアイデアを引出す能力も必要です。
デジタルリーダーの場合、自社で育てた人材の他に、外部からの経験者を呼ぶという選択肢があります。外部のリーダーに依頼をする場合は、社内外連携の進め方における検討も求められます。社内にDX関連プロジェクトを牽引できる人材がいない場合は、早めに調整を進めるようにしましょう。
不確実な「DX人材募集」
従来の人事部でDX人材を確保することは可能であろうか?
- CDO (Chief DX Officer):システム刷新をビジネス変革につなげて経営改革を牽引できるトップ人材
- デジタルアーキテクト(仮称): 業務内容にも精通しつつITで何ができるかを理解し、経営改革をITシステムに落とし込んで実現できる人材
- 各事業部門においてビジネス変革で求める要件を明確にできる人材
- ビジネス変革で求められる要件をもとに設計、開発できる人材
- AIの活用等ができる 人材、データサイエンティスト
今まで述べてきたDX人材の資質をみれば、このような人材の確保は簡単なことではないと思われます。
従来の人事部の困難さ
ビジョンを描ける人材の育成、ビジョンを実行できる体制をつくるための人事異動、いずれも人事部門が取り組める。急に外部から専門家を採ったところでどうなるか、人事部門は過去の経験からわかると思いますが、受け入れる土壌ができてないので、すぐに辞められるなどの問題が多発します。「DX人材を採れ」と社長から言われたら拒否できないでしょうが、その通り実行しても失敗に終わるだけで結局は人事部門の責任になってしまいます。人事部は極めて難しいタスクを請け負うことになります。
DXに向いている人材を見極める
人材育成にかかる膨大なコストと時間を考えれば、DXに向いている人材を見極めた上で採用・配属することも場合によっては必要になってきます。例えば、いわれたものを黙々とつくる人の場合、いくら研修を受けても、自身が持つ高度な知識や技術を使ってイノベーションを起こすDX人材になるのはかなり難しいことです。
また、新事業や新システムを生み出すプロジェクトでは、なかなか自分の思いどおりにいかないことも多々あります。ポジティブに物事を捉えながら仕事に取り組めるマインドも必要となるでしょう。こういった人材を外部調達するかどうかは、そのビジネス環境下で慎重に見極める必要があります。
ひとり情シスの問題
日本独特の「ひとり情シス」の問題が多くの企業にとって、DXの足かせとなるかもしれません。
「ものづくり白書」によるデジタル人材不足の指摘
2020年5月、経済産業省は「2020年版ものづくり白書」を公開しました。ものづくり白書とは、ものづくり基盤技術の振興のために政府が講じた施策に関する報告書で、ものづくり企業や技術の動向を、経済産業省と厚生労働省、文部科学省が共同で白書として取りまとめています。「2020年版ものづくり白書」は特にデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向けた強いメッセージが発信されています。しかし、同時に製造業の置かれている現状への課題提起も多数示されています。
白書では三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる調査*を基に、工程設計力が低下した理由が示されています。それによると、79.4%が「ベテラン技術者の減少」、19.1%が「間接部門の人員削減」と回答しており、ベテラン技術者の退職や人材不足はエンジニアリングチェーンにも深刻な影響を与えていることが報告されています。
しかしながら、ひとり情シス協会の公認団体である「ひとり情シス・ワーキンググループ」が2020年12月に実施した「ひとり情シス実態調査」「中堅企業IT投資動向調査」によると*、従業員が100~500人までの中堅企業のうち32.6%はひとり情シスであることが判明しています。そもそものデジタル人材の獲得自体が経営上の大きな問題となっています。
ひとり情シスのような属人的なアプローチはビジネスの成長が難しいと指摘します。また、ものづくりの現場においても、機械のオペレーションや部品の組み立て、検査といった「現場作業」から、生産計画の立案や最適な人員配置などといった「管理業務」まで、特定人材の熟練した技に頼り切ってしまっている部分がさまざまな業務に残っています。
DX人材の採用は難しい(あらゆる手段を)
厚生労働省による調査結果「一般職業紹介状況(平成31年1月分)」では、情報処理・通信技術者の有効求人倍率は2.65倍と非常に高い数字を記録しています。このデータは、デジタル人材の獲得競争がとても激しいことを意味します。
有効求人倍率がこれだけ高くなることの背景には、DX人材の多くが、転職やスキルアップに関して少し特殊な考え方を抱いているという事実があるのです。
まず、NTTデータ研究所の調べでは、働きざかりである20~40代に占めるDX人材が1割程度であることがわかっています。そして、そのうち7割以上が転職経験者であるDX人材の場合、反対の非デジタル人材と比べて、1年以内の転職意向が3倍以上という現実があります。
では、どうすればよいのかとなると、それぞれの企業の置かれている環境の中で、両者(社内、社外、その他)から最大限の可能性を模索し、人材の確保育成に注力することになります。
DX人材の調達と資源管理
戦略的DX人材の確保と管理
DX人材は従来の人材とはかなり異なったハンドリングが必要。下記の標準的サイクルでも、期間やプロセス、基準などカスタマイズが必要となる。
以下の数枚の図表は、雇用形態、職場配置、評価報酬、SNS的関係についてまとめたものですが、これらは、大きな時代の変化の結果としてすでに定着が始まっているものです。欧米では数十年前から普通になっているものですが、日本では独特の文化があり(どちらがよいとかいうことではない)なかなか順応できないと思いますが、現実は現実なので、よしあしは全く関係なく、DX推進という目標に合うかどうかで判断スべきものであります。
雇用形態の見直しの必要性
人材維持の為の職場環境の整備
まとめ
長々と人材開発について述べてきましたが、日本の企業、特に中小企業にとって「明確な実行可能なソリューションがない」というのが私の見解です。
逆に、一つだけ言えることは、昔ながらの考え方でDX人材開発をやろうとしても、失敗する確率が非常に高いということです。
付録: AI-Ready(参考になる関連情報)
DXのコンポーネントの重要な項目にAIがありますが、このAIに準拠した企業を育てるために経団連がAI-Readyという指標を打ち出しています。なぜAIかと言うと、DXの中でも将来一番どの分野にも適用される技術であるので、人事戦略とは少しテーマが異なりますが、参考資料として下記まとめておきます。
内閣府による「AI-Readyな社会」の指針
企業が目指すべきAI-Readyな個人とは?
「AI活用戦略」の考えでは、すべての個人がAIを活用できる状態を目指します。そのために対象となる層を3つに分け、人材育成とリテラシー教育をすることが必要であるとしています。
トップ人材(研究者)には、枠にとらわれない教育の仕組み作りや他分野との連携などが求められます。また、中核人材(技術者)はAI工学の習得、利用者はAIリテラシーを身に付ける必要があります。
※参考:AI活用戦略|一般社団法人日本経済団体連合会
AI-Readyな企業の割合
アクセンチュア社が日本を含む世界12カ国の約1500人の経営陣を対象に調査をした結果、AI-Readyであるのは16%と低い水準に留まりました。日本企業でAI導入を検討している割合も20.6%となっており、まだまだAI-Readyな企業が少ない状態です。
※参考:AIの本格導入でビジネス価値を実現する|アクセンチュア
AI-Readyな企業に向けた5つのレベル
日本経済団体連合会の「AI活用戦略」では、AI-Readyな企業になるための5つのレベル(ステップ)を提示しています。
【レベル1】
レベル1はAI-Readyに着手していない状態です。
経営層はAIリテラシーが足りておらず、AIが自社の経営や社会に与える影響が理解できていません。AIの専門家は外注に任せているか、在籍していたとしても連絡役にすぎない状態です。従業員は従来型の属人化した業務が多く、AIについての基礎知識もありません。
システムレベルは古い、もしくはAIを使える環境が整っていない状態で、データも十分収集されていません。
【レベル2】
レベル2はAI-Ready化を開始した初期段階です。
経営層はAI-Readyな企業に向けた方向性を示していますが、具体的な戦略は発信できていない状態です。専門家は外注に頼りながらAI化を進めていますが、少数の人材しか育っていません。従業員の育成も不十分ですが、一部にはAIリテラシーの基礎を持つ人材が出てきています。
システムレベルは業務の一部にAIを活用し始めた状態です。データに関してはオンライン業務の収集・分析はできていますが、実店舗の顧客行動などのデータ化は着手できていません。
【レベル3】
レベル3はAI-Ready化を進めている段階です。
経営層は企業経営の戦略にAI活用を組み込めている状態です。専門家は人材が育ち、独自のAI開発、事業展開を行っています。従業員にはAIの使い方の浸透が進み、手順やツールも整備されて実務も効率化できている段階です。
システムレベルに関しては、業務フローレベルで実務活用ができるようになっています。データ収集・分析は事業モデルをほぼカバーできている状態です。
【レベル4】
レベル4はAI-Ready化を進めている段階です。
経営層にAI活用の担当者が加わっている状態です。専門家はAI開発、事業展開のために最新技術を取り入れています。従業員の半分以上は高いAIリテラシーを取得しており、現場レベルでAIを活用した業務改善ができるレベルです。
システムレベルは業務とマーケティングがシームレスに連携している段階です。また、事業モデルをカバーしているデータ収集と分析は、ほぼリアルタイムで更新されています。
【レベル5】
レベル5は自社のAI-Readyが業界のモデルとなり、さらなるAI活用をけん引している状態です。
経営層は業界全体のAI活用刷新の役割を担っています。専門家は各領域で高い技術を持ち、実用技術だけでなく研究分野でも成果を上げている状態です。従業員には理系・文系といった垣根がなくなり、全員がAIリテラシーを持って活用できています。
システムレベルに関しては、オフラインデータも含めた全データを収集・分析でき、活用している状態です。また、こうしたデータや分析結果をもとに、新たな独自AI開発に役立てたりシステム化して他社に提供したりしています。
※参考:AI活用戦略|一般社団法人日本経済団体連合会
AI人材
AI人材とは、どのようなAIをつくれば業務を効率化できるか、新たなサービスを実現できるかを創造できる人材のことです。つまり、AI-Readyな企業になるための中核的な人材となります。AI人材に必要なスキルはAI開発に対する専門的な知識、エンジニアとしての経験などです。また、事業分野の知識やビジネス上の課題などを知っていることも欠かせません。
こうしたことから、AI人材を外注に求めるのは限界があります。とはいえ、事業に精通した人材は必ず自社にいますが、専門家のスキルも兼ね備えていることは稀です。そのため、人材不足に悩む企業も少なくありません。
以上AIについても、人材に言及されていましたので、参考として掲載いたしました。