RPAの進化と未来の形
RPAの進化と未来の形がどのようになるかを予測するに当たり、RPA市場をドライブしている背景の要因について以下にまとめてみました。既に、RPA基礎編でとりあげた内容もありますが、ここではそれも含めより広い見地から要因をまとめて取り上げます。これらをもとに、5年後10年後のRPAを予測してみましょう。
現在のRPA市場予測(RPA基礎編で詳述)
RPA市場規模の動向 ~この5年間で約10倍の成長~
調査結果によると、
「短中期的にみると、RPA市場にとっての好材料は多い。
テレワークの利用増加で業務効率化に取り組む企業が増え、ペーパーレスやハンコレスによるデジタル化も進んでいる。コロナ禍によって業績が悪化した企業では省人化とコスト削減ニーズが高まり、一方で需要が増加して業務量が増えた企業でも、これまで通りの人員体制で迅速に処理を進めるためにはRPAの活用が有効である。
また、これまでは導入が遅れていた中堅中小企業や地方自治体などでのRPA導入も進んでいく見通しである。」
と分析されています。
RPAを後押しする要素
RPAを推進する背景となる要素について、以下まとめてみた。
日本のデジタル化の遅れがより鮮明に
政府の情報通信白書によると、日本のデジタル化競争力ランキングは世界27位です。昨年からまた順位が下がったようです。この27位の順位は、日本人にとって意外な数値で、ほとんどの人が日本は世界の最低でも10位以上にいると思っているのではないでしょうか。
DXレポートの2025年の崖は何度も報告されておりますので、ここでは割愛しますが、このような危機意識もなかなか日本にはないように思います。
日本は最下位で、データ取得可能な1970年以降ずっと最下位です。
労働生産性の国際比較
労働生産性の国際比較表を見ても、日本は21位と決して高くはないです。日本人は、長時間働くことで、世界的に有名です。最近やっと働き方改革が広まり、労働時間が減少しはじめましたが、国民全体の習慣文化にかかわることなので、変化するのに時間がかかります。
デジタル庁発足とDXの加速
昨年、菅政権になり真っ先にデジタル庁の新設が決定されたことは日本にとって非常に大きな進化のきっかけになったと思われます。過去においては、数々の調査で、日本のデジタル化の遅れはわかっていても、具体的に方向転換する政策は決められてこなかったわけで、経産省によるDXレポートが2018年に発表されても実態は何も変化が起きないままコロナ禍が始まったわけです。そこで、感染者の数の発表にFAXの多用と保健所の人海戦術で、3日遅れで状況がわかるという日本の古典的な手法があきらかにされたわけです。
DXよりはまず自動化RPAによる効率化
近年DXが話題になっておりますが、DXというのはデジタル化のステージでいうと、かなり上級レベルのデジタルプロセスが実行できる会社がはじめてチャレンジできるレベルのものです。そういった意味では、DXは日本では、まだハイプカーブの最初のピークに向かっている段階でしょう。
日本が今置かれている状況はDXの初期段階のエクセル手作業の世界から、それをとりあえず自動化するRPAが始まったばかりと考えられます。2016年に、RPAテクノロジーズという会社がRPA協会を立ち上げて、それ以降、毎年の展示会でもRPAが大きく取り上げられ市場が大きく立ち上がってきています。
また、NTTデータが2018年4月ごろからRPAツール「WinActor」の技術検定サービス「RPA技術者検定」を開始。これは私企業の資格ですが、ひとつの潮流を表すものでしょう。
RPA協会・技術者検定・展示会テーマ
平成28年8月1日(2016年)
ノーコード/ローコードの動きとRPA
SaaSはプログラミングでカスタマイズをすることができません。そのため、SaaSアプリケーションをライトにカスタマイズする手段としてノーコード/ローコードツールが使われはじめました。
これであれば、プログラミングができない現場やIT部門の従業員が扱うことができ、これによりユーザーが大きく広がってきます。「市民開発者 (Citizen Developer)」という言葉も流行っているが、プロの開発者でない市民開発者もアプリケーションのカスタマイズを行うことができるようになってきました。これにより現場で業務効率化を推進できるようになり、いわゆる「ITの民主化」が急速に進んできたわけです。
日本で「超高速開発ツール」と呼ばれているツールもノーコード/ローコードと同じもので、ノーコード/ローコードは「コードをほとんど書かない」という共通点以外は決まった形式が存在しません。
RPAの定義は「ロボットが人間の代わりに画面操作をしてくれる」のが特徴で、其のためには、千差万別の多数のプロセスに合った形にカスタマイズが必要です。一昔まえであれば、その度にSIer会社に多額の費用をかけて開発依頼してきたのですが、昨今のローコード・ノーコードの流れが拡大すると顧客ユーザーは、毎回システム開発して、時間とコストをかけることをしなくなってきました。従って、RPAは最初からノーコードが大前提となっています。これが、RPAが拡大する大きな理由のひとつです。
AI・ビッグデータ・データサイエンスの発展
AIについては、大きなテーマなので、別途まとめているのでそちらを見ていただくこととして、ここでは、AIの発展がRPAの未来の発展形として存在していることに注目したい。そして、その速度は、AIの成熟の速度に大いに依存しています。AIは着実に高速度で市場を拡大しています。現在のRPAにはインテリジェンスは存在していない。つまり、ソフトウェアが自分で判断する要素は0です。しかしながら、将来的には、人間の判断要素をAIが代行するようになるでしょう。そうなると、RPAの用途と市場は一層大きな拡大をすることは間違いありません。
(2020年度AI主要8市場全体は前年度比19.9%増、2025年度には1,200億円に達すると予測)
ロボット化の動向
人の労働を代替えするロボットの開発と導入もすさまじい勢いですす拡大しています。ロボットの特集でも各種のロボットを紹介しておりますが、RPAは「デジタルレイバー」と呼ばれているように、人が行っているパソコン作業を代行するロボットです。これは、市場が効率化を追求していく過程で必然的に需要が拡大するので、これもRPAを後押しする重要な要素であります。
以上、RPAをプッシュする市場の要因についてまとめましたが、これらの背景から、将来RPAは次に述べるRPA2.0の方向に進むと考えられています。
RPA2.0 : Intelligent Robotics Process Automation
前章で述べたように、決まりきったPCの操作はロボットに任せてしまおうと考えるのは必然であり、それがRPAの推進を後押ししています。今後、定型業務の自動化だけでは物足らない企業を中心に、業務担当者の経験や知識に依存していた業務に対しても臨機応変に対応できるRPA2.0が、求められて来ています。
広範囲の業務に対しても自動化するためには、テンプレートに当てはめるだけではなく、AIなどを利用して様々なアプリケーションと連携して、自社の業務に最適なロボット開発をすることが、RPA2.0として求められています。これは、Intelligent RPAと読んでもよいと思います。
Intelligent RPAのできることは、例えば次のようなものになります。
①非定型な業務に対応できる
②適応出来る業務の範囲が広い
③現行の環境でそのまま使用できる
④ロボット同士の連携ができる
⑤メールデータなどの非構造化データを取り扱える
⑥複雑な条件分岐や、判断が行なえる
⑦いろんなアプリケーションと連携できる
⑧サーバでの集中監視が要らない
⑨最適な業務ごとのバックアップ体制が組める
⑩AIやIoTと連携できる
⑪拡張性がある ・・・など
RPA2.0では、人間が行なう単純なPC操作などに加え、RPA1.0ではできなかった、複雑な判断の処理を含むプロセスが追加されます。
其の結果、RPA2.0では、業務担当者が行なっているすべての業務に関するオペレーションすべてをソフトウェアロボットに代行させることができるようになります。
RPA2.0では、想定されるありとあらゆるケースにおいて、人がオペレーションする場合に実施するであろうと思われる動きについて、その処理をロジックとして組み入れておきます。具体的に言えば、通常ありえない形式でデータが入ってきてしまった場合でも、ソフトウェアロボットにあらかじめそのようなケースも含め事前に学習させておき、人の介在がなくても処理できるようになることです。
RPAとAIへの拡張
上記で述べたように、RPA 2.0の決定的な特徴は、AIとの合体になります。大手のRPA ベンダーは、既に、ディープラーニング等の機械学習や、自然言語処理を取り入れたコグニティブ技術をいろいろと取り入れる方向で動いています。やり方は千差万別で、自社開発しているベンダーもあれば、IBM Watoson と提携したBlue Prism 社のようにコグニティブに強い会社と組んで提供しているところもあります。
いうまでもなく、RPA は繰り返し操作などルール化できる業務の自動化は得意です。しかしながら、非ルーティンタスクである直感的な判断や、創造性や問題解決能力が要求される業務は、AI 技術との連携が必要になります。そのためには、高度な技術と、高性能なマシン、高速なストレージが必要になるため、まだ、大手企業でも、やっと研究開発が始まったばかりですが、今後ますます需要が増えてくるであろうと推測されます。
まだ多くの研究開発を要する
AI も日々進化を続けておりますが、企業の業務目的にあったAI のアルゴリズムを開発するには時間とコストがかかるため、従来のルーティンワークをRPA 化するケースとは分けて考える必要があります。
定例業務をそのままソフトウェアロボットへの代行させる場合は、割と短期間に適用が可能ですが、AI を搭載したRPA は、業務フローや運用手順の変更も入り、アルゴリズムのチューニングなど、検証テストにも時間が必要なため、目標期間を決めて特別なプロジェクトとして進めることが重要となります。
つまり、AI 搭載のRPA 導入には、業務効率改善のためシステムを再構築するくらいの規模の事業・システム開発になるので、それなりの予算と期間を覚悟する必要があります。
AIの問題点
AIを搭載することによる懸念点は、AIが出してきた答えが正しいものかどうかの検証が人間ではできなくなる場合が多いことです。つまり、AIが出してきた答えは、それがどのような推論であっても信じるほかなくなってしまうのです。ビッグデータを元に導き出した答えは、たとえそのアルゴリズムに問題があっても、人間では膨大な処理を検証することができなくなるという問題があります。
今後、RPAツールはAI標準搭載済みソフトウェアロボットとなっていくわけですが、このAIの判断したアウトプットをいかにして検証するかという問題への解決手法も開発される必要があります。
RPAの進化
段階的な発展
上記のClass 1.0(現在のRPA)から将来のClass3.0に至るまでには、まだ多くの段階が必要となります。最初に考えられることは、AI-OCRやAIスピーカーなどの技術を利用して、紙や画像、音声などの情報を、RPAが扱えるような形式のデータに変換し、自動化できる業務の範囲を広げることです。
RPAツールという自動化ロボットに、AI-OCRという優れた目を与えたり、AIスピーカーという優れた耳を与えたりする段階です。最終的には、人の介在がほとんど不要でIntelligentRPAが独自に判断しプロセス処理を行うようになると思われますが、これにはまだかなりの年月を要すると推測されます。
まとめ
かつて、産業用ロボットは生産工場での人間の肉体労働を代替えし、生産性と品質の向上に貢献しました。RPA2.0 は、オフィスで働く人々の仕事を大幅に軽減します。このソフトウェアロボットによる事務作業の自働化によって、人々は場所や時間に縛られることなく、自分の得意とするよりクリエイティブな仕事に専念できるようになります。人手不足や、高齢化問題、経験不足による品質低下や、クレームの問題もRPAロボットが解消してくれるでしょう。RPA2.0 を推進することにより、徐々により多くの業務が自働化でき、会社の業績も上がり、働く人々も楽になり、そして生活にゆとりができれば、新の働き方改革ができるのかもしれません。
Thank you for reading all the way to the end