衛星通信の基礎

衛星インターネットの軌道の種類

衛星には軌道の高さによって3種類に分類される

  • GEO (Geostationary Earth Orbit)
  • LEO (Low Earth Orbit)
  • MEO (Medium Earth Orbit)
  • HEO (High Earth Orbit)
Types of Satellite Systems

ここでは、衛星インターネットで使われるLEO(低軌道衛星)を中心に解説する。

LEO

LEOは、地球表面からの高度2,000km以下を差し、これに対し、中軌道(MEO)は2,000 kmから36,000 km未満、静止軌道(GEO)は36 000 km前後。低軌道衛星は、約27400 km/h(約8 km/s)で飛行し、1回の周回に約1.5時間を要する(高度約350 kmの例)

  • 低軌道に衛星を投入するほうが少ないエネルギーで済むため、小型のロケットで打ち上げ可能である。
  • リモートセンシングでは、地表との距離が近いので画像などの分解能が向上する。
  • 通信衛星では、送受信機の出力電力がより少なくてすむ。

まず、昔から行われている観測衛星で一般的な説明をする。地球観測衛星は高度600~800km程度の軌道を周回するものが多い。静止軌道などに比べ、高度が低いことから、このあたりは地球低軌道(LEO)と呼ばれるが、それよりもさらに地球に近いのが超低高度軌道である。高度はおよそ200~300km程度。通常、高度100km以上が宇宙とされるので、”ギリギリで宇宙”といった感じの軌道だ。超低高度軌道の利用が避けられてきた理由は、大気抵抗の大きさである。宇宙空間は真空だと思われがちだが、高度600~800kmであっても、わずかに大気が存在している。この大気抵抗により高度が下がってしまうため、衛星は定期的にエンジンを噴射して、高度を維持している。燃料(推進剤)が尽きたとき--それは衛星の寿命となる。地球に近づくほど、大気密度は増える。超低高度軌道になると、高度600~800kmに比べ、その大きさは1,000倍程度。大気抵抗も1,000倍になるわけで、何もしなければ、衛星はあっという間に高度を下げ、大気圏に再突入して燃え尽きてしまう。かといって、エンジン噴射で高度を維持するにしても、膨大な燃料が必要になって現実的ではない。光学観測を行う衛星であれば、より接近して対象(地表)が見られるわけだから、分解能が向上する。逆に、分解能が同じで良いのであれば、センサを小型化できる。一方、レーダー観測の衛星は、電波を出すのに大きな電力が必要になるのだが、これは高度の3乗に比例するため、高度が低くなれば消費電力は劇的に下がる。つまり、同じ観測性能で良いのであれば、軌道を地球低軌道から超低高度軌道に変えるだけで、衛星の大幅な小型化・低コスト化が可能になる。(大気密度と高度の関係グラフ下図)

低軌道衛星コンステレーション

低軌道衛星を用いるものは、静止衛星と比較して高緯度の地点でも容易に交信可能で大型の指向性アンテナが不要である。しかし、ひとつの衛星から見渡せる地域は狭くなるため、多数個の衛星を衛星間通信により協調動作させ全地球的な交信を可能にしている。衛星インターネット(衛星コンステレーション)この方式になる。

  • グローバル・ポジショニング・システム(GPS衛星、中軌道)
  • GPSほかの衛星測位システム(GLONASS・Galileo・BDS)
  • 衛星電話
  • 衛星インターネットアクセス
  • 複数衛星による同時地球観測

低遅延・大容量伝送

5Gのキャッチフレーズのようだけれど、低軌道衛星コンステレーションは、5Gより画期的に通信性能を高められる。まず、昔から使われている静止軌道衛星は36000Kmの距離の伝搬に往復で0.5秒以上の遅延が出るので、インターネットでの使用に致命的な問題がありました。一般的なインターネット接続では50ミリ秒以下であれば快適に操作ができると言われています。オンラインゲームなどのデータの遅延が許されないようなものでは、30ミリ秒以下でないといけないと言われています。 低軌道衛星の場合には、200kmの距離になるので、 現在のStar Linkベータ版では、その速さは31ミリ秒です。これは将来20ミリ秒にまで改善されると予想されています。イーロンマスク氏は自身のTwitterで、2021年以内に通信速度を300Mbpsに、通信遅延を20ミリ秒にすると宣言しています。

既に、一般人がStar Linkのセットを購入しゲームをやってみた感想をYoutubeで公開しています。衛星の数が現在の10倍になるので、この目標をクリアするのは時間の問題のようです。

Star LinkでGamingを実験した人のレポート

Many people have asked so far, ‘Can you game on Starlink?’ The short answer is yes! It’s surprisingly good! The long answer? It’s good, but there are a few things that could cause issues…

現在の地球の人工衛星の状況

2008年古いデータだが、欧州宇宙機関(European Space Agency、ESA)が公開した地球低軌道(Low Earth Orbit、LEO)を周回する衛星のコンピューター生成画像。周回衛星は2万以上(現在ではこれより遥かに多い)あり、うち1万1500がLEO上にある。また、地表から高度約3万5786キロの地点に、通信衛星など静止衛星は1100以上。スペースデブリ(宇宙ごみ)も問題となりつつある。コンステレーション・地球観測衛星で使用される高度700〜1,000kmは大変混雑しており、また通信衛星や気象衛星等が使用する高度36,000kmの静止軌道近傍、GPS衛星が使用する高度20,000kmが混雑している。いずれにしても膨大な数の衛星が既に地球の周りを周回しているのが今日の衛星事情だ。

衛星間通信(レーザー通信)

衛星コンステレーションでは、低軌道の衛星は地上から見えている間は10分程度になる。つまり継続した通信を行うには、交信する衛星を次々と変えていかないといけない。この複雑なコントロールに必要な通信手段が衛星間通信の技術だ。 近年では、光通信を行えるようになって、その結果大幅なアンテナサイズの縮小や、機材の軽量化がはかれるようになった。

Star linkの衛星間通信の資料が、日本語がどうもないようなので、英文のものをこちらに入れておきます。

Laser Inter-Satellite Links in a Starlink Constellation

いくつか画像を下記に掲載します。

重要なポイントは、

  • 軌道上で衛星と衛星を結ぶ通信回線(inter-orbit communication link: IOC)をレーザーで実現する光衛星間通信では,宇宙という真空の空間をレーザーが伝搬する。レーザーの持つ極めて高い指向性により,大通信容量かつ秘匿性に優れた通信回線を構築できる。
  • 電波と異なり法的規制がなく複雑な国内・国際調整が不要である。
  • 地上における光通信では,霧・雨等の天候条件に通信回線品質が大きく左右されるという欠点があるが、宇宙という真空の空間ではこの問題がない。
  • 電波より「大容量伝送+低遅延」が可能
  • アンテナ・送信機の大幅な小型軽量化が実現でき、大幅なコストダウンが実現。
  • レーザー光の有する高い指向性のため,通信リンクの確立・維持にμradレベルの極めて高い通信光の指向精度が要求される。
  • 地上局の数を少なくすることができるので、地上での衛星地上局建設の時間とコストが大幅に下げられる。

Space XのStar Linkで使われる衛星間通信は「Starlink Laser Crosslink」と呼ばれている。説明は下記YouTubeを御覧ください。

レーザーを使った衛星間通信方式では日本のLucasという開発プロジェクトも動いており、原理などの説明はそちらがわかりやすいので、下記掲載します。

「光衛星間通信システム」(LUCAS:Laser Utilizing Communication System)

2020年11月29日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「光データ中継衛星」を搭載した、H-IIAロケットが打ち上げに成功した。

光データ中継衛星には、JAXAが開発した「光衛星間通信システム」、愛称「LUCAS(ルーカス)」と呼ばれるシステムを搭載。地球観測衛星などとのデータ中継をレーザー光を使って行うとともに、そのデータを中継し、地上に送り届ける役割をもっている。運用が始まれば、地球観測衛星と地上とが通信可能な時間が従来の約4倍に向上、さらに通信速度は従来の約7倍に向上すると期待されている。

ニュース解説 4万km離れた人工衛星と地上局の間で光通信回線を確立
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