202Xの崖を飛び越える

デジタルの崖(経済産業省報告)

2017年に発表された経済産業省のDXレポートが指摘する「国全体で年間最大12兆円の経済損失」という数字は、システム停止やデータ消失にともなう損失額だが、極めて大きな数字になっている。その上に、実際には、システムを維持管理し続けるコスト、競合にシェアを奪われることによる売上減、ビジネスの機会損失などが追加されてくるので、実質的には予想を超える損失が発生するだろう。会社の経営者にとって、事業損益へのインパクトは極めて甚大で、全体で見ると、世界市場における日本企業の競争力低下は大きいものとなる。

調査によると、レガシーシステムが「維持保守の属人化」「デジタル化の足かせ」の原因と考える企業は約7割に達し、また同じく7割超がDXにかかわる何らかの取り組みを既に開始している。

 しかしながら、内容をよく見てみると、効果を得られたとされる領域は、大半が『定型業務の自動化』『業務効率化』にとどまり、本当ののDXにはなっていないことも事実だ。これは、崖の本質を正しく理解していないからである。本当に経産省の言っている崖を越えるには、「システム」「人・組織」「ビジョン」という3つの分野に対して総合的にソリューションを考えなければならない。壁を来れるためにはこれらの要素が有機的に結びつく必要があるが、実際にはうまく結びついていない。これが崖問題が直面する最大の問題であるわけです。これらの要素を有機的に結びつけるための抜本的変革に取り組まなければ、目の前の崖は乗り越えられても、また新たな崖に直面することになりかねないわけです。

どうやって崖を飛び越えるか

まずシステムについては、レガシー脱却に対する考え方を改めることが必要です。レガシー脱却とDXを別々に考えてはうまくいかず、レガシー脱却は、DXに必要なIT環境を実現するための一連のプロセスの一つととらえ、継続的にITを進化させていくことが重要です。

AIをはじめ、デジタル技術の活用が不可欠なDXは、巨大IT企業は別であるが、普通の企業では1社だけで実現することは極めて難しい。技術の進化に追従する「アジリティの高いIT」、ほかの企業や産業、社会とシームレスに連携する「つながるIT」を目指す必要がある。この方向性のもと、ムダを徹底的に排除しながら既存資産を再構成することが重要である。

また、人・組織の分野で重要なのが、知見を継承する人財の育成である。これまではベテラン世代がミドル世代を、ミドル世代がジュニア世代を育てるという構図が自然に成り立ったが、少子高齢化が加速する日本社会ではこれがスムーズにいかない。新たなスキームを考えない限り、築き上げたビジネス、業務、ITの知見は失われていくでしょう。

一方、ジュニア/ミドル世代は技術の進化に敏感で、ITリテラシーも高い人が多い。今のうちに、IT活用プロジェクトにおけるベテランとジュニア/ミドル世代の融合を積極的に図り、知見を受け継ぐことが将来を考えると極めて重要です。まず小規模でスタートし、成功を積み重ねていく根気強い取り組みが必要です。そのプロセスにおいては、現場と経営が一体になって描くことが大切であるし、正しく先を見通す努力に加えて、変化の「スピード」と「不連続さ」に対応する『察知力』『分析力』『意思決定力』『実行力』を組織全体で高めることが、キーポイントとなります。